きざりにして逃げて往く小供達の耳に源吉の声がきれぎれに聞えていた。

       二

 源吉は一心になってお諏訪様を呼んでいたが、四辺《あたり》が妙にしんとなって淋しくなったので、ひょいと後を揮り返って見た。小供達はもう何人《だれ》もいなくなっているので起ちあがった。
「源吉、其処におったか、俺はまあ何処へ往ったかと思いよった」
 それは軽い喜びの声であった。翁の面のような顔をした痩せた襦袢に股引穿《ももひきばき》の老人が其処に立っていた。それは祖父の為作であった。
「お祖父さん」
「今まで一人で、こんな処で何をしておった、お飯《まんま》が出来たから喫《く》わそうと思うて尋《と》めよった、お母《かあ》も手伝いに往っておっても、お前のことばかり心配しよる、早う帰《い》んでお飯《まんま》にしよう」
「お祖父さん、お諏訪様は、小供が好きなの」
「お諏訪様が小供が好きかと云うか、好きとも好きとも、べっしてお前のような小供はお好きじゃとも」
「お諏訪様は、白い蛇になって出て来るの」
「それは俺にゃ判らんが、神信心する者には、お姿を拝ましてくだされるとも」
「お諏訪様は、白い蛇になって、小供と
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