と云うよ」
松の浮根に乗っている小供の話はそれで終った。獅子鼻の小供は何時の間にかその珍らしい話に釣りこまれていた。
「それでは、彼の島の中にあるお宮は、亀の宮か」
「そうとも」
松の浮根に乗っている小供は、何がおかしいのか笑い顔をした。
「人が鮒になったら面白かろうなあ」
「赤兄公とは何じゃろう」
「城址の桑の木には、どんな蛇がおるのじゃろう」
他の小供も皆その話に釣りこまれていた。すると松の浮根に乗っている小供は声を出して笑いだした。
「なぜ笑や」
獅子鼻の小供が不思議そうにその顔を見た。
「なぜ笑やって、その話は嘘じゃよ、これは某《ある》学者が、嘘に云うた話じゃそうじゃ、自家《うち》の伯父さんが話したよ」
「な、あ、んじゃ、嘘の話か」
獅子鼻の小供をはじめ他の小供も笑いだした。その笑い声のやや納まりかけた時、「あすこへ、江戸から来た小供が来た、小供が来た」と云う者があった。獅子鼻の小供はむこうを見た。
「そうじゃ、彼の子じゃ、だましてやろうか、何人《だれ》ぞ呼うで来い」
松の浮根に乗っている小供が云った。
「俺が知っておる、呼うで来い」
草原の出外れに見える二三軒の
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