がとうございます、ありがとうございます」
「お祖父さんは眼やにをつけてるだろう、顔を洗って来ると見えるのだ」
 為作は顔をあげなかった。
「もったいない、もったいない、お祖父さんはどうでもええ、ありがとうございます、ありがとうございます、どうかお引取を願います、お前も何時までももったいないことをしてはならん、早う神様にお引取を願うがええ、もったいのうございます、もったいのうございます」
「お祖父さん、お諏訪様は、今輪になったよ」
「これもったいない、もったいないことを云うてはならんぞ」
「お諏訪様、お祖父さんは、お諏訪様が見えんと云います、蟹を伴れて来て見せてやっておくんなさい」
「罰あたり奴が、そ、そんな我がままを申しあげてはならんと云うに、神様、どうぞ、もう、こんな小供の云うことはおとりあげになりませんように」
「蟹が出た、蟹が出た、お祖父さん、お諏訪様が呼んだから、蟹が木の穴からぞろぞろ出て来たよ」
「もったいないと云うに、罰あたり奴が、そんなことを申しあげてはならんぞ」
「出て来たわ、出て来たわ、お祖父さん、一ぱいの蟹よ、見なさい」
「もったいない、もったいない、もったいないこ
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