れるのだもの」源吉はすまして云って手を合せながら、「お諏訪様、お諏訪様、ちょいと出ておくんなさい」
「しっ、これ、そ、そんなことを申しあげては、ならんと云うに、聞きわけがない奴じゃ」為作はそう云ってからまたべったりと平蜘のように頭をさげて「お聞きくださいまし、こんな物の判らん小供でございます、どうかお気になされないようにお願いいたします」
一心になってあやまっている為作の耳に嬉しそうな源吉の声が聞えて来た。
「お諏訪様が出て来た、お諏訪様が出て来た、お祖父さん、お諏訪様が出て来た」
「なに」為作はお詫びの詞《ことば》を忘れたように顔をあげて前を見た。
「見えるでしょう、お諏訪様が、おいらの方を向いて来る」
しかし、為作には中も見えなかった。
「見えるでしょう、白い※[#「女+朱」、第3水準1−15−80]《きれい》な蛇よ」源吉は前に指をさして、「それその蛇よ」
草、祠、祠を抱いた榎もはっきり見えるが、他には何もなかった。
「お祖父さんには見えない、見えなくても、も、もったいない」為作はとり乱したように云って地べたへ頭をつけて、「こんな小供の云うことをおとりあげくださいまして、あり
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