あたり》が明るくなっていた。為作は怖いような尊いような気がして、平生《いつも》のように平気で往くことができなかった。彼は祠から二間位離れた処へ坐って塩と米を盛ったへぎを前に恭しく置きながら、べったりと両手を突いて頭をさげた。
「今日は、何も知りません孫奴が、畏れ多いことをいたしまして、何ともお詫びの申しあげようがございません、それに悴が亡くなりまして、未だ一年の忌《いみ》ぶくのかかっておる身でございます、がんぜない小供とは申せ、お詫びの申しようもございませんが、そこが父親なしの哀れな小供でございますから、どうかお赦しくださいますように、この爺から幾重にもお詫びをいたします」
 為作は平|蜘《ぐも》のようにしていた頭をちょっとあげて、左脇に並んで坐っている源吉の横顔を見た。
「お前もお詫びをしろ」
 源吉は平気であった。
「お諏訪様は、怒りゃしないもの、呼んでみようか」
「こ、これ、何を云う」為作はあわてて遮って、「そ、そんな、もったいないことをしてはならんぞ、なんぼ何も知らん小供じゃ云うても、そんことをしては、神様のきついおとがめがあるぞ」
「だってお諏訪様は、おらの云うとおりにしてく
前へ 次へ
全27ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング