がの」
 源吉が箸を置いたところで人の跫音がして入って来た者があった。
「今晩は」
「今晩は」
 為作は盃を持ったなりに月の射した縁側の方を見た。四十位の男と三十位の男の顔があった。
「秀と金次か、何か用か」
 為作の詞《ことば》にはあいそがない。秀と云う四十男はきまり悪そうな笑い方をした。
「べつに、そう用もないが、話しに来た」
「そうか、明日の家業にさしつかえなけりゃ、話していけ」
 二人はちょっと顔を見合して何か云いあいながら腰をかけたが、今度は金次と云う三十男が云った。
「小父さん、仕事はどうぜよ」
「仕事か、飯が喫えんから、あるならするが、この年になっちゃ下廻りの仕事しかできん」
「俺の家にも、納屋を建てたいと云うて、せんから云いよるが」
「銭が出来たら建てるもよかろ、大工なら、善八でも喜六でも、腕節の達者な大工が何人でもある」
「小父さんはできんかよ」
「できんことはあるまいが、年が年じゃ、何時死ぬるやら判らん、受けあいはできんよ」
 為作の詞は何処までもぶっきらぼうであいそがない。金次は笑うより他にしかたがなかった。
「姐さんは、まだ戻らんかよ、源吉が独りのようじゃが」

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