ためであった。その話は神通川の傍《ほとり》になったあんねん坊の麓に出ると云うぶらり火のことであった。ぶらり火は佐々内蔵介成政が、小百合と云う愛妾と小扈従竹沢某との間を疑って、青江の一刀で竹沢を斬り、広敷へ駈け入って小百合の長い黒髪を掴んで引出し、それを神通川へ持って往ってさげ斬りに斬って、胴体はそのまま水に落し、頭《かしら》は柳の枝に結びつけたので、小百合の怨みのぶらり火が出るようになったが、それ以来神通川を渡ってあんねん坊を越えて往く成政の軍は振わず、とうとう小百合のことから家が滅んだと云うその辺《あたり》に残っている伝説であった。
「ぶらり火の出る処には、髪を上から掴まれたような女の首がある、自家《うち》のお祖父さんが見たと云うよ」
「怕いなあ」
「怕いとも」
「今でも出るじゃろうか」
「出るとも、髪がこんなになった女の首が、ぶらりんと出て来るよ」
ぶらり火のことを話していた十四五に見える小供は、両手で髪の上を掻きあげるようにしながら、獅子鼻の鼻糞の附いている鼻を前へ突き出すようにした。
「松公、汝《おぬし》は放生の亀の話を知っておるか」
獅子鼻の右横になった松の浮根に竹馬に乗
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