放生津物語
田中貢太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)放生津《ほうじょうつ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)平|蜘《ぐも》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「女+朱」、第3水準1−15−80]
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一
越中の放生津《ほうじょうつ》の町中に在る松や榎の飛び飛びに生えた草原は、町の小供の遊び場所であった。その草原の中央《なかほど》の枝の禿《ち》びた榎の古木のしたに、お諏訪様と呼ばれている蟇の蹲まったような小さな祠があったが、それは枌葺《そぎふき》の屋根も朽ちて、木連格子の木目も瓦かなんぞのように黒ずんでいた。
初夏の風のないむせむせする日の夕方のことであった。その草原から放生湖の方に流れている無名《ななし》水の蘆の茂った水溜で、沢蟹を追っかけていた五六人の小供の群は、何時の間にか祠の前へ来て戦《いくさ》ごっこをしていたが、それにも飽いたのか皆で草の上に腰をおろした。それはその中の一人が話をはじめたが
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