るようにしていた小供が、獅子鼻に向って云った。
「放生の湖《うみ》には、川の幅が狭って、海へ出られん亀の主がおるよ」
獅子鼻は何でも知っているぞと云うような得意な顔をした。
「そんな話じゃないよ」
松の浮根に乗っている小供が獅子鼻を押えつけるように云ったので、獅子鼻は面白くなかった。
「それなら、どんな話じゃ」
「ある人が、夏、放生の湖《うみ》へ舟を乗りだして、寝ておると、何時の間にか己《じぶん》が魚になって、湖の中で泳いでおる、どうして魚になったろうと思いよると、そこへ他の魚が来て、海の神様が来たから、お前も同伴《いっしょ》に往けと云うから、同伴に踉いて歩きながら己を見ると、己は黄色な大きな鮒になっておる、どうも不思議でたまらんから、理由《わけ》を聞きたいと思うたが、聞くこともできんから、そのまま踉いて往くと、大きな大きな龍宮のような御殿があって、王様のような者がおって、皆の魚がその両脇に並んでおるから、己も其処へ往って坐っておると、黒い素袍を着た大きな大きな魚が王様の前へ出て来た、傍の者に聞くと、あれは赤兄《あかえ》公じゃと云うてくれた。その赤兄公が王様に、私は王様の処へ往きた
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