藁屋根のある方から十歳《とお》位に見える色の白い小供が来ている。と、此方から一人の小供が往って往きあうなり何か云っていたが、直ぐ二人で伴れ立って此方へ来た。小供達はそれを見ると云いあわしたように起きあがった。松の浮根に乗っていた小供は二人の前へ立ち塞がるように出た。
「お前は何と云う名じゃ」
色の白い小供は足を止めた。
「おいらは源吉と云うのだ」
「そうか源吉か、今日からいっしょに遊うでやるから、彼の神様の前へ往って」松の浮根に乗っていた小供は、祠の方へ指をさして「地べたへ坐って、お諏訪様、お諏訪様、いっしょに遊びましょうと云いな。お諏訪様は小供が好きじゃから、出て来ていっしょに遊うでくれる、なあ、みんな」
松の浮根に乗っていた小供の詞《ことば》に続いて皆が返事をした。
「そうじゃ」
「そうじゃ」
「そうじゃ」
源吉と云った小供ははにかむように眼を伏せながら聞いた。
「お諏訪様ってどんなものだ」
「そうじゃ、白い、白い蛇のような姿をしておるよ」
「白い蛇」
源吉はちょっと驚いたように云って相手の顔を見た。
「そうじゃ、白い蛇じゃが、神様じゃから怕いことはないよ」
「そう」
「やってみな」
「そう」
源吉はそう云って邪気の無い眼をくるくるさして対手を見た後に祠の方へ往った。祠の右側に並んだ榎の枝には一条の微陽《うすび》が射していた。源吉は祠の前へ往くとそのまま短い草の生えた処にちょこなんと坐った。それを見ると松の浮根に乗っていた小供は、獅子鼻の顔をはじめ仲間の顔をつらつらと見たが、悪戯そうな笑いたくてたまらないと云う顔であった。
「さあ、云いな」
松の浮根に乗っていた小供にうながされて源吉は口を切った
「お諏訪様、お諏訪様、いっしょに遊びましょう」
それは敬虔な云い方であった。それを聞くと小供達の笑い顔が集まった。松の浮根に乗っていた小供は、手をふってそれを押えるようにした。
「お諏訪様、お諏訪様、いっしょに遊びましょう」
源吉は後から後からと繰りかえした。松の浮根に乗っていた小供は、源吉がそうして一心になって傍見《わきみ》もしないのを見きわめると、手をあげて皆を招くようにしておいて、先ず己《じぶん》で爪立ちながら跫音のしないようにして歩きだした。それを見ると獅子鼻をはじめ仲間の小供達も、その後からそれと同じような恰好をしながら踉いて往った。そうして置
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