中の島へ亀の宮をこしらえさして、その下へ亀の一族を住わすことにしたらよかろう、それには、今日鮒になった男を、元の人間にして、村の人に云わさすがええと云うて、王様は帰《い》んでしもうた、鮒になった男は、どうして元の人間になろうかと云うと、漁師の垂れた鉤《つりばり》に釣られるか、網に採られるかして、人間に料理してもらえば、元の人間になれると教えてくれたから、鉤を探したが、漁師が来んから鉤がない、それなら網に採られようと思うても、網を打つ者がない、そのうちに村の人たちは、亀を祭るなら、亀が人を採らんようになるじゃろうと云うて、島の中へ亀の宮を建ててしもうた、鮒になっておった人は、早く人に採られよう、採られようと思うておるうちに、やっと金沢あたりから遊びに来た人が、網を打ったが、一人の網を打った人は上手で、前へ網を投げたから入れなかったが、一人の人は下手で、網がからみあって舟の下へ落ちたから、その網にかかってあがって、頭を切りはなして料理をしてもらうと、人間になって、元寝ていた舟の中で眼がさめたが、もう亀の宮が出来ておったから、そのことを人に話しても、何人《だれ》もほんとうにするものがなかったと云うよ」
 松の浮根に乗っている小供の話はそれで終った。獅子鼻の小供は何時の間にかその珍らしい話に釣りこまれていた。
「それでは、彼の島の中にあるお宮は、亀の宮か」
「そうとも」
 松の浮根に乗っている小供は、何がおかしいのか笑い顔をした。
「人が鮒になったら面白かろうなあ」
「赤兄公とは何じゃろう」
「城址の桑の木には、どんな蛇がおるのじゃろう」
 他の小供も皆その話に釣りこまれていた。すると松の浮根に乗っている小供は声を出して笑いだした。
「なぜ笑や」
 獅子鼻の小供が不思議そうにその顔を見た。
「なぜ笑やって、その話は嘘じゃよ、これは某《ある》学者が、嘘に云うた話じゃそうじゃ、自家《うち》の伯父さんが話したよ」
「な、あ、んじゃ、嘘の話か」
 獅子鼻の小供をはじめ他の小供も笑いだした。その笑い声のやや納まりかけた時、「あすこへ、江戸から来た小供が来た、小供が来た」と云う者があった。獅子鼻の小供はむこうを見た。
「そうじゃ、彼の子じゃ、だましてやろうか、何人《だれ》ぞ呼うで来い」
 松の浮根に乗っている小供が云った。
「俺が知っておる、呼うで来い」
 草原の出外れに見える二三軒の
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