刀を出してきた。
孫恪は心に惑いながらも、その剣を持って帰った。すると袁氏は既にそれを悟って、
「郎君《あなた》はもと貧しかったのを、私が憐んで夫婦となり、交情も日ましに厚くなっているにかかわらず、その恩義をわすれて、私を棄てようとするのは、人の道にはずれたしうちだ」
と言って泣いた。孫恪はその言葉を聞くと非常に心に恥じた。
「これは自個《じぶん》の本意でなくて、親戚の張閑雲から強いて言われたから、しかたなくやろうとした事だ、どうか怒りをやめてくれ、我には決して二心がない」
と、これも涙を流してあやまった。
そこで袁氏は孫恪の持ってきた剣を手に取って、それを箸を折るようにぽきぽきと折った。孫恪は懼《おそ》れて遁げ出そうとしたが、それも怖ろしいのでわなわなと慄えていた。袁氏は莞爾《にっ》と笑って孫恪の顔を見て、
「数年間も同居して、こうした間になっているから、決して郎君を害する事はない」
と言った。孫恪は遁げるのも怖ろしいのでそのまま袁氏の婿となっていた。その後、孫恪は張閑雲に逢って、その日の事を話すと、閑雲は仰天して、
「変異測りがたし」
と、言って、それから孫恪と逢わないよ
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