留《とうりゅう》することになったが、娘の千代《ちよ》は、日一日と旅僧になじんで往《い》った。また一方、旅僧の方でも、千代の美しい姿にひきつけられているようであった。
 千代はまだ十六の少女であったが、その美貌《びぼう》と気だてのよさに、近在の青年たちの注視の的となっていた。
 そのうちに旅僧は、べつに先を急ぐ旅でもないから、どこか山の中に良い場所があるなら、庵《いおり》を結んで、心|静《しずか》に修行したいといい出した。そして、毎日のように朝早くから家を出て夕方になって帰って来た。時として千代がその伴をして往くことがあった。
 ところで、いつの間にか勘右衛門の女房は、旅僧が数多《あまた》の金を持っていることを知ったので、千代を利用してそれをまきあげようと思って、それを千代にいい含めたが、千代はてんで受けつけなかった。
 一方、勘右衛門は旅僧の素性や、所業《おこない》に不審を抱くようになった。と云うのは、僧でありながらろくにお経を知らないのみか、身分不相応な金を持っていることであった。勘右衛門はそうした不審を抱くとともに、そんな男に、千代を慰み物にせられては大変だと云う懸念で、頭の中が一
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