風呂供養の話
田中貢太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)播磨《はりま》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)明治十五六年|比《ごろ》の
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中国山脈といっても、播磨《はりま》と但馬《たじま》の国境になった谷あいの地に、世間から忘れられたような僅か十数戸の部落があったが、生業は云うまでもなく炭焼と猟師であった。
それは明治十五六年|比《ごろ》の秋のことであった。ある日、一人の旅僧が飄然《ひょうぜん》とやって来て、勘右衛門《かんえもん》という部落でも一番奥にある猟師の家の門口に立って、一夜の宿を乞《こ》うた。
その日、亭主《あるじ》の勘右衛門は留守であったが、女房と娘が出て見ると、二十六七の如何《いか》にも温厚そうな眉目清秀の青年僧で、べつに怪しいところもないので、むさくるしい処でもお厭《いと》いなくばと云って泊めた。
やがて、帰宅した亭主も旅僧を疑わず、其の夜は、旅僧から旅の話を聞いて珍らしがった。そして、翌日《あくるひ》になったところで、生憎《あいにく》とどしゃぶりの雨になって、それがその翌日も続いたので、旅僧はしかたなく逗
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