た何かに的中した。
「ふたーツ」
 数とりの声が嘲笑に交って聞えた。奇怪至極のことであった。彼はまた三発目を放した。
「みーツ」
 弾はその怪獣の手にした黒い器に的《あた》るらしかった。備後は四発目を打ちかけた。
「よーツ」
 流石の備後も周章《あわ》てぎみであった。
「いーつツ」
 怪獣は順々に備後の弾の数とりをして往った。備後の眼は血走っていた。
「とう」
 十の数とりをしてしまった怪獣は、弾を受けていた黒い器を備後に向けて投げつけた。
「備後、もう、弾はあるまい」
 怪獣は巌の上に立ちあがってぎらぎらと眼を光らし、いきなり飛びかかりそうな気配を示した。備後の腰の皮袋には余分に鋳たまだ一個の弾があった。彼は手早くその弾をこめて放した。怪獣は恐ろしい叫びをあげてからその姿を消してしまった。
 備後はたしかに今の弾が怪獣に当ったと思った。彼はその辺《あたり》を探して歩いたが、それらしいものは見つからなかった。彼は怪獣の投げつけた黒い器を拾って帰った。帰りながら見るとその器は古い茶釜の蓋で、それには己《じぶん》の打ったらしい弾の痕が数多《たくさん》残っていた。

 備後は家へ帰って怪獣の
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