け入ったが、十日の後に二百里外の土地へ往った。
 そこには南方に当って半天に鑚《そそ》り立った高山があった。その山の麓には谷川が滔々《とうとう》と流れていた。※[#「糸+乞」、第3水準1−89−89]の一行は巌角《いわかど》を伝い、樹の根に縋って、山の中へ入ったが、往っているうちに、女の笑い戯れる声がした。※[#「糸+乞」、第3水準1−89−89]は恠《あやし》みながらその声をしるべにしてあがって往くと、大きな洞門があって、その前の花の咲き乱れた木の下で、数十人の美女が蝶の舞うように歌い戯れていた。※[#「糸+乞」、第3水準1−89−89]の一行が往くと女らは別に驚きもせず、
「何しにここへ来た」
 と言った。※[#「糸+乞」、第3水準1−89−89]がその訳を話すと、
「その婦《おんな》ならここに来て三月になるが、今は病に罹って寝ている」
 と言って、※[#「糸+乞」、第3水準1−89−89]を誘《いざの》うて中へ入った。
 病床にいた妻は※[#「糸+乞」、第3水準1−89−89]の顔を一眼見ると、手を振って、
「ここへ来ては危険だ、早く出て往け」
 と言った。※[#「糸+乞」、第3
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