ら、附近へ人を出して捜索さした。
「親興の妻子の居処を知らして来た者には、褒美の金をやる」
 という布告をだした。六人の者が田路を通って長福寺へ入って往くところを、植田の百姓達が見ていた。金に眼のくれた百姓達は訴人となって出た。
 数十人の討手は不意に長福寺へ来た。
「比江山の女房小供を渡せ」
 住職は驚いたが欺せるものなら欺そうと思った。
「めっそうもない、比江山の女房小供が隠れておるなどとは、存じもよらんことでござる」
「云うな、比江山の女房小供六人が、此処へ入ったところを、植田の者が見ていて、訴人に出たのじゃ、それでもおらんと云うか」
 討手の頭《かしら》は住職を叱りつけた。
「でもそんな者はおりません」
「争いは無益じゃ、家探しして捕えめされ」
 討手の者は頭の声と共に、ばらばらと寺の中へ駈けあがった。住職はそのまま離屋の方へ走って往って、六人の者を逃がそうとした。三四人の討手は住職を追って来て、彼が離屋の縁側へあがろうとするのを押えて捩伏せた。
「奥様も御子様達も、早く、早く、討手が来たから、早く、早く」
 住職は捩伏せられながら叫んだ。討手の者は皆其処へ集まって来た。六人の
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