うがくたいざん》の神、金天府は西岳華山《せいがくかざん》の神で、泰山の神の神意によって張はもう死人の籍へ入れられていた。悪人の張も恐れて顔色が土のようになった。
「私は一家一門が広いから、後の始末をせずに死ぬると、大変なことになる、今、私の嚢《ふくろ》の中には、数十万の金があります、これを差しあげますから、私の生命が延びるようにしてください」
張は泣きだしてしまった。黄いろな服の男は言った。
「金はいりません、今日のお礼に教えてあげましょう、華山の蓮花峰《れんげほう》の下に、劉綱《りゅうこう》という仙人がおります、そこへ往って頼みなさい、それに華山の神が、南岳の衝山《しょうざん》の神と博奕《ばくち》をやって負け、その金を催促せられておりますから、まず華山廟へ往って、お礼に千金を献じますと言って、約束してから仙人の処へ往きなさい、なんとかなりますよ」
そこで張は車をかまえて華山廟へ往き、牲牢《せいろう》を供え、千金を献上すると言って祈願し、それから蓮花峰の下へ往った。小さな庵があって、一人の道士が机によって坐っていたが、張を見ると、
「死んで体が腐りかかっているものが、なにしにここへ来た」
と言って叱った。張はその前にひれ伏して、
「どうか私の生命が延びるように、おとりはからいを願います」
「いかん、俺は一度、漢朝の権臣の生命を延ばそうとおもって、奏請したために、ここへ謫居《たくきょ》の身となっておる、帰れ」
張はここぞと思って一生懸命になって頼んでいると、一人の使がやってきて書簡《てがみ》を道士に渡した。道士はそれを開いて読んだが、読んでしまうと笑いだした。
「華山の神から頼んできたな、しかたがない、奏請してみよう」
道士は筆を執って何か書いてそれを函に入れ、香を焚いて拝んでいると、その函がひらひら空へあがって往った。そして、暫くするとはじめの函が落ちてきて道士の前へ止まった。函の上には、徹という字が書いてあった。道士はまた香を焚いて拝んだ後に函の蓋を開けた。それには、張の生命を五年延ばしてやるという意味の文書が入っていた。
「五年の生命が延びた、これからは身を謹み、心を清くせんければならんぞ」
張は喜んで礼を言って道士の前を辞し、一足歩いて振り返って見ると、もう庵もなければ道士もいなかった。そして、十里あまりも歩いたところで、かの黄いろな服を着た男がひ
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