なしにして返事をしなかった。武はますます怒って邑宰《むらやくにん》に訴えた。邑宰からは林児を拘引すべしという命令が出たが、下役人がつかまえなかった。官の方でもそれからうえは問わなかった。武は怒りに燃えていた。ちょうどそこへ七郎が来た。武はいった。
「君がいったことがあたった。」
そこで武は林児のことを話した。七郎はさっと顔色を変えて悲しそうにしたが、ついに一言もいわないで、すぐいってしまった。
武は頭《かしら》だった下男にいいつけて林児を偵察《ていさつ》さしてあった。林児は夜他から帰って来て偵察している者の手に落ちた。偵察していた者は林児を武の前に突きだした。武は林児を杖《つえ》で叩《たた》いた。林児はめいらずに武の悪口をついた。武の叔父の恒《こう》は寛厚の長者であった。姪《おい》があまり怒って禍《わざわい》を招くのを恐れたので、つきだして懲《こら》してもらった方が好いだろうといって勧めた。武はその言葉に従って、林児を繋《しば》って邑宰の所へ送った。しかし御史の家から名刺をよこしてくると、邑宰は林児を釈《ゆる》してその下男に渡して帰した。林児はますます我がままになって、群集の中で、
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