小さな髷がありました。婆さんはそのままお駕籠の傍へ寄って往って、垂れを頭ではねのけるようにして、頭をお駕籠の中へ突き入れました。手前はあまりな婆さんの仕打を見てまして、仏罰を恐れないのか、なんと云う後生の悪いことをする婆さんだ、と、怒るよりは、空恐ろしい思いをしましたところで、婆さんの頭は突き戻されるようにお駕籠の中から出るとともにその体は背後《うしろ》へよろよろとなりました。婆さんの額には、門跡様の白い青みがかった※[#「女+朱」、第3水準1−15−80]《きれい》なお手がかかっておりました。私は門跡様が婆さんを煩がって、お突きになったものだと思いました。婆さんの体のよろけぐあいから申しましても、それは、もう、たしかにお突きになったものであります。
ところで、遠くの方におりました者は、そのわけあいは判りませんから、婆さんの額にかかっておりました門跡様のお手を見ると、門跡様がその婆さんに特別にお手を触れられたものだと見てとりました。
「門跡様のお手が触れた、ありがたいことだ、なむあみだぶ、なむあみだぶ」
「彼《あ》の婆さんの頭に、門跡様のお手が触れた、なむあみだぶ、なむあみだぶ」
「
前へ
次へ
全7ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング