くなって銭のようになり、右の睛には螺《にな》の殻のような渦まきが出来ていた。そこで方棟はあらゆる薬を用いて癒そうとしたが効《ききめ》がないので、悩み悶えた後にひどく自分の行いを後悔するようになった。光明経《こうみょうきょう》を誦《よ》むと厄をはらうことができるということを聞いたので、それを求めて人に教えてもらって誦んだ。初めのうちは心がいらいらしておちつかなかったが、しだいにおちついてきて安らかになり、朝晩ほかのことは思わずに珠数《じゅず》を捻《つまぐ》っていられるようになった。
 この状態を一年ばかり続けているうちに身心|倶《とも》に静かになった。と、ある日、右の目の中で蠅の羽音のような小さな声で話をする声がした。
「真暗だ、どうするというのだろう、たまらないや」
 左の目からそれに応じて言った。
「いっしょに出て遊ぼうじゃないか、気ばらしに」
 すると両方の鼻の孔の中がむずむずかゆくなって、物がいて出て往くようであったが、しばらくして帰ってきて、また鼻の孔から※[#「目+匡」、第3水準1−88−81]《まぶた》の中へ入って話しだした。
「しばらく園《にわ》を見なかったが、珍珠蘭《ち
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