女《むすめ》はだめを押して、
「私は帰ります、お婆さんと、其処までいっしょにしましょう」
 老婆はお爺さんの墓までのかなりある距離を浮べて早く往かないと帰りが遅くなると思った。彼女は花束を持ってそそくさと下に降りた。

 夕方になって老婆は墓参から帰って来た。この五六日水気の来たような感じのあった右の足の腓《こむら》の筋が、歩いているうちに張って来たので、老婆はすこし跛を引くようにしていた。彼女はお茶を一ぱい飲んでちょっと休み、それから夕飯の準備《したく》にかかろうと思って、庖厨《かって》の庭から入り、上にあがろうとすると、椀へ入れた黍《きび》の餅が眼に注《つ》いた。黄色な餅の数は五つばかりあった。
(これは何処から持って来てくれたろう)
 老婆は餅の贈り主を考えてみた。本家の女《むすめ》、むこう隣の小作人の女房、家から西になった門口に大きな榎のある家の老婆、こんな人達のことが浮んだ。
(大榎の婆さんには、さっき逢ったし、本家は昨日団子をくれたばかりじゃから、また今日くれることもなかろう、それではむこうの馬吉の家か)
 むこう隣の小作人の家らしくもあったが、其処は多忙で餅などをこしらえ
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