老婆はもう縁側に出ていた。
「昨日も一昨日《おととい》も、雨で往かれざったから、今日は往こうと思ってな」
 と云って、孫|女《むすめ》の背に負っている嬰児《あかんぼ》を見たが、嬰児は睡っていた。
「おお、おお、睡っているな、可愛い可愛い顔をして」
「今、睡ったばかりよ」
 と、孫女は手籠を縁側に落すように置いて、
「今日は芋を掘りましたから、すこし持って来ました」
 老婆は籠の中を覗いた。きれいに洗った里芋の新芋が八分目ばかり盛ってあった。
「これはありがたい、晩には煮て、お爺さんにもあげよう、籠を借りて置いてもかまわないかな」
「かまいませんよ、この次に貰って往きますから」
 と、孫女は縁側に腰をかけて、
「お婆さんは、出掛だけれど、ちょっと話がありますが」
「どんな話だよ、かまわない、話があるなら話してみな」
 老婆は孫女の身に、何か心配ごとでも起ったのではあるまいか、と、思って縁側に蹲んで、孫女の顔を覗き込むようにした。
「私のことじゃない、お婆さんのことじゃが、お婆さんが我家《うち》に来ないもんじゃから、我家の作造が心配して、お婆さんは何か私に気に入らないことがあって、それ
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