その秀英の鼻孔《はな》のあたりに微かな気息《いき》があるように感じられた。世高は耳のふちに口をつけてその名を呼んだ。
女はやっと眼を見ひらいた。秀英は蘇生したのであった。二人は手を取りあって泣いた。
世高と秀英の二人は機の熟するまで迹《あと》をくらますことにした。そこで棺には葢をして、もとのとおりに土を被せ、棺の中に入れてあった首飾などを持って、その夜、月の下を運河の岸に出て、そこから舟を雇うて世高の故郷の蘇州へ往った。
世高の両親はとうに没くなって、他に兄弟姉妹《きょうだい》もないので、世高は何事も思いのままであった。彼は蘇州の我家へ帰るなり秀英と華燭の典をあげた。
そうして二人がいるうちに紅巾《こうきん》の賊乱が起った。それは至正の末年で、天子は元順帝《げんじゅんてい》であったが、杭州の劉万戸が人才であるということを聞いたので、それを用いることにして呼んだ。
劉万戸はそれを好まなかったが、辞することもできないので、夫人を伴れて京師へ向ったところで、張士誠という乱賊が蘇州に拠って劫掠《ごうりゃく》をはじめていた。それがために途が塞がって進むことができなかった。しかたなしに
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