は此処でお産をさせなければならないが、地べたではもし狼に襲われたときに困る、と彼は考えながら四辺《あたり》に眼をやっていると、直ぐ近くに檜があって、それが一丈ばかりの処から数多《たくさん》の枝が出て、その間に二三人の人が坐っても好いようになっているのを見つけた。
飛脚は其処へ妊婦を置くことに定めて、腰にさしていた刀で、その傍から数多《たくさん》の葛を切って来て檜の樹の上へあがって往き、それを枝から枝に巻きつけて妊婦と己《じぶん》と二人でおられるようにした。そして、妊婦を負ってその上にあげた。
何時の間にか夜になって林の下は真暗になったが、十日比の月が出て空は明るくなった。
お産の時刻が迫って来て妊婦は呻き苦しんだ。飛脚は背後《うしろ》から抱きかかえるようにして女に力をつけてやった。飛脚はまた女の背にあった包を解いたり、己の両掛の手荷物を開けたりして、その中から有りたけの着更《きがえ》を出して用意をした。
暗い中に嬰児《あかご》の泣き声がして女はお産をしたのであった。飛脚は嬰児を抱きあげてそれを衣服《きもの》で包《くる》んだ。嬰児は無心に手の中でぐびぐびと動いていた。
と、何処
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