とは本当に懐かしい気がしますね。で、皆がその提灯を点けて来る人はどんな人だらうか、と云ふやうな好奇心を起して一歩一歩と近づいて来る提灯を待つてゐたんです。
「今頃、提燈を点けて、何所へ行くんだらう、」
「村の人だよ、お互のやうに、遅くまで飲んでて帰つてく所なんだよ、」
「停車場の近くの者だよ、海水浴場へ客の用事で行つてたもんだよ、それでなかつたら、海水浴場の宿屋の者が、停車場まで用足しに行くところなんだよ、」
皆の気持がこんなことを話すやうに軽くなつたんです。その内に提灯はすぐ前に来ましたが、見ると学生風をしてゐるんです。よく見ると学生も学生も、僕達と同類の角帽ぢやありませんか、僕はなんでも好いから声をかけやうとすると提灯の光に知人の顔が見えるぢやありませんか。
「西森君ぢやないか、」
と云ふと、
「おお、平山君か、」
と云つて僕の顔を見るんです。
「今頃、何所へ行くんだ、」
と聞くと、
「僕の家は、すぐこの先だ、今帰るところだが、君達の方こそ、ぜんたい、何所へ行くんだ、」
と西森はかう云つてから僕達をはじめ傍に立つてゐる友人の顔を懐かしさうに見るんです、高等学校の時は時々往
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