しんとして来て汗の出るのも止つたんです。それに今まで盛んに喋り散らしてゐた者が喋ることを止めたものですから急にひつそりとなつて淋しくなつたんですよ。
「これから、順々に、皆がお得意のものをやらうぢやないか、」
 と云ふ者がありましたが僕を初め何人も歌はうとする者はないのです。
 さうして皆が黙つて思ひ思ひの心になつて歩いたもんですから、猶更淋しくなつて四人の駒下駄の砂に触れる音がサク、サクと聞えるばかしで、それがまた妙に四人の他に姿の見えない物があつて従いて来てゐるやうに感じたんです。もつともこの感じは後から僕のこしらへた感じかも判りませんがどうもそんな気がしたやうに思ふんです。
 その内に半里くらゐも行つたんでせうか、松原の松が飛び飛びになつて路の左側に砂山のある所がありますね月見草や昼顔が咲いてゐるさうですね、彼所へ行つたところで向ふの方に薄赤い火の光が見えるぢやありませんか。
「火が見えたね、」
「人家があるだらうか、」
「提灯ぢやないか、」
 皆がこんなことを云つたんですが近くなると提灯の火のやうです、そして此方の方へ動いて来るんです。さう云ふ淋しい場合に提灯の火を見ると云ふこ
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