来してゐたんですが、大学へ這入つてから科が別でしたから遠くなつて、たまに途で顔を逢はせるくらゐでしたが何人にも悪い感じを持たれない男でした。友人から聞くと西森の家庭は複雑してゐてなんでも田舎ではかなりの財産家で、西森のお父さんになる人が其所の総領でその家を相続することになつてゐると、お父さんの弟になる人が商売気のある人で横浜方面で鉄の商売をやつたところが莫大な利益を得て一躍成金になつてしまつたところで、まだ財産を自分で持つてゐたお祖父さんが亡くなつたもんだから、弟の方では皆自分の財産にしてしまつて西森のお父さんは家と僅かな財産を相続することになつたので、それがためにお父さんはそれを口惜しがつてたうとう悶死するやうに死んでしまつたんです。そんなことで西森はよく学校を休んだと云ふことを聞いてゐたんです。
「僕達はこれから△△へ行くんだ、本郷で飲んでて、其所からずつとやつて来たところなんだ。」
 と僕が云ふと西森は微笑して、
「依然として元気だね、それにしても彼所へまでは大変だ、この提灯を持つて行きたまへ、」
 と云つて提灯をだしましたから提灯があるなら大変都合が好いと思つて僕は遠慮なくそれ
前へ 次へ
全8ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング