をあさる時に、馴れてしまって用心しないので、竹青がいつも注意したが聴かなかった。ある日、兵士の乗った舟が通った。兵士は肉のかわりに銃弾を飛ばした。銃弾は魚の胸にあたった。魚が落ちようとすると竹青が銜《くわ》えて往ったので、兵士につかまらずにすんだ。鴉の群は朋輩を撃たれて怒り、羽ばたきをして波をあおったので、大きな波が湧き起って兵士を乗せた舟は覆ってしまった。
 竹青は魚を林の中へ伴れて往って、餌をあさってきて食わそうとしたが、魚は傷がひどかったのでその日の中に死んでしまった。と、夢のように目が醒めてしまった。魚は呉王廟の廊下に寝ている自分を見出したのであった。
 はじめ土地の人は呉王廟の廊下に死んだようになっている魚を見つけたが、どうしたものか解ろうはずがない。体へ手をあててみるとまだ冷えきっていないので、時どき人を見せによこした。ところで、この時になって魚が蘇生したので、すべての事情が解った。村の人は金を出しあって旅費を作ってくれたので、魚は無事に故郷へ帰ることができた。
 後三年して魚はまた旅に出たが、途ついでに呉王廟へ参詣して、食物を供え、鴉を呼びあつめて食べさした。そして、
「この中に竹青がもしいるなら、残っておいで」
 と言って祈ったが、鴉は食べてしまうと飛んで往って一羽も残らなかった。
 魚は後に官吏になって帰ってきたが、また呉王廟に参詣して、羊と豚を供え、一方にたくさんの食物をかまえて、鴉の友達に御馳走をした。そしてまた竹青のことを言って祈ったが、その日も残る鴉はいなかった。
 魚はその晩舟を湖村に繋いで燭《ひ》の側《そば》に坐っていた。と、鳥のようにひらりと入ってきて几《つくえ》の前に立ったものがあった。みると二十《はたち》ばかりの麗人であった。にっと笑って、
「お別れをしてから、御無事でしたか」
 と言った。魚はめんくらって訊いた。
「あなたは、何人ですか」
「あなた、竹青をお忘れになって」
 魚は喜んだ。
「何所《どこ》から来たかね」
「私は、今、漢江の神女となっていますから、故郷《うち》へ帰ることはすくないのですが、鴉の使いが二度も来て、あなたの御心切を知らしてくれましたから、お眼にかかりに来たのです」
 魚はますます喜んだ。ちょうど久しく別れていた夫妻のように懽恋《かんれん》にたえなかった。そこで魚は竹青を自分の故郷へ伴れて往こうとした。

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