さい、僕が往って助けてくる」
「では、お供をいたしましょう」
 女は前に立って室を出て往った。王はその後から随《つ》いて往った。
 いつの間にか王の眼の前に城市が見えてきた。女はその城市の西門から王を連れて入って往った。
「此処から入りますよ」
 一つの厳めしい門がすぐきた。
「秋月さんは、この中におります」
 王はその門の中に指をさした。
「そうですか、この内ですか、ありがとう」
 王は女に礼を言ってから門の内へ入って往った。其処には数多い室があって、その中に入れられている囚人の姿が窓から見えていた。王はすぐ傍の室の窓から覗いた。其処には五六人の男の頭がうっすらと見えていて、若い女の姿は見えなかった。次は三人の女と一人の老人であったが、其処にも秋月の姿は見えなかった。王は窓から窓を覗いて往ってみると、中から灯のほっかりと見えている小さな窓があった。王はまたその窓の方へ寄って往った。
 室の中の牀《こしかけ》のうえに秋月が泣きながらすわっているそばに、番人の一人が腰をかけていて、それが太いおおきな指を秋月の顎の下へやって、顎をいじりながらからかっていた。
「おい、罪人となった癖に、貞節
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