も糞もあるかい」
 これを見ると王は戸を突き開けて入って往って、刀を抜くなり驚いて逃げようとする番人を突き殺した。
「秋月さん、あなたを助けにきた」
 王は血刀を拭って鞘に収めるなり、秋月を隻手《かたて》に軽々と抱いて其処を走り出た。そして、足に任して歩いていると見覚えのある旅館の入口へきた。と、思う間もなく王は眼がさめたようになった。王は吃驚《びっくり》して四辺《あたり》に注意した。傍には秋月が眼に涙を溜めて立っていた。
「では、夢を見ていたものとみえる」
 王はそう言いながら起って往って秋月を抱きかかえた。
「僕は、今、おかしな夢を見ていたのです、あなたは、いつ来たのです」
「あなたに救われて、いっしょにまいりました、夢ではありませんよ」
「そう、夢じゃなかったのですか」
「夢ではありませんとも、で、私の蘇生《いきかえ》る時もきましたから、すぐ掘ってください」
「墓を掘るのですか」
「そうですよ、今晩の月の入りが私の蘇生る時ですよ、掘って、三日の間、私の名を呼んでください、三日すれば、私はきっと蘇生ります」
「いいとも、掘って家へ連れて往こう」
「では、期《とき》を誤らないようにし
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