いた。
「ひもじい、ひもじい、何か食う物を持ってこい」
 鼎は死んでから二日目に蘇生したのであった。其処へ王が入ってきた。王はあの世から兄の魂を連れて戻ってきた話をした。
 七日目になると王の家では門を開けて喪の旗を除いた。人々は鼎が蘇生したことを知って、驚き喜んで集まってきた。
 王は家にいたが秋月に逢いたくなったので、また船を雇うて南へくだり、かの鎮江の旅館へ往った。そして自分の借りた室へ入って、日が暮れると灯を明るくして女のくるのを待っていた。
 暫く待っても女はこなかった。王は諦めてもう寝ようと思ったが、体を動かすのも億劫であるから、そのままぐったりとして腰をかけていた。その王の朦朧とした眼の前へ女の姿が見えた。王は秋月ではないかと思って声をかけようとしたが、それは秋月とは違った年老《としと》った女であった。王は黙ってその女を見つめた。
「私は秋月さんのお使いでまいりました、あなたが役人を殺してお逃げになったものですから、秋月さんが捕えられて、監禁せられておりますが、番人が毎日秋月さんをいじめて困っております」
 王は女の言葉を聞いてもうじっとしていられなかった。
「教えてくだ
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