だろう、お前は国へ帰って金の心配をしてくれ」
 王は兄の傍へ寄って往って兄の肘《ひじ》に手をかけて泣いた。小役人は怒って鼎を縛っている縄を引っぱった。鼎はよろよろとして倒れた。
 王はそれを見ると火のようになって怒った。彼は腰の刀を抜いて、いきなり一人の小役人の首を斬った。一方の小役人はそれを見て叫びながら逃げようとした。王はまたその小役人も斬り殺してしまった。
 王といっしょにきていた女がこの時傍へ来た。
「役人を殺しては大変です、早く舟を雇うて逃げてください、逃げたうえで、七日の間、門を閉じて出入りしないようにするなら、きっとこの禍を脱《のが》れることができます」
 王は兄の縄を解くとともに、女をそのままにしてすぐ小船を雇うて北へ帰った。そして、家へ帰ってみると、門口には喪の旗が出ていて弔客《ちょうかく》が溢れていた。
 王ははじめて兄が死んであの世へ連れて往かれていたということを知った。彼は女の言ったように門を閉じて、家の中へ入ってみると、いっしょに帰っていた兄の姿が見えなかった。
 そのうちに死人の枕頭に詰めて死人の番をしていた家内の者は、呼吸《いき》をふきかえした死人を見て驚
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