ながら見ていると、二人の小役人が二三人の囚人に縄をかけて前の方からきた。その囚人は皆首に縄をつけてあった。一行は二人の傍を通り越そうとした。その拍子に王が眼をやると、一番後をあるいている囚人の容貌がどうも兄の鼎に似ているので、不思議に思って追っ駈けるようにしてその傍へ往った。
「兄さんじゃありませんか」
 すると、囚人の顔が此方を見返った。それは確かに兄の鼎であった。
「おお、お前か」
 王は狂人のようになって言った。
「兄さんは何故こんなことになったのです」
 兄の眼からは涙が零《こぼ》れた。
「何のことだかさっぱり判らない、不意にこうして縛られてきたのだ」
 王は小役人の前へ走って往った。
「私の兄は、江北の名士で君子です、どんなことがあったか知らないが、兄は悪いことをする者じゃないのです、待ってください」
 小役人は王を叱りつけた。
「ならん、その方達の知ったことじゃない、どけ」
 王は小役人の前へ立ち塞がるようにした。
「待て、待て、わしがこうして連れて往かれるのは、官の命だ、この者達の知ったことじゃない、しかし、わしは、今、金がない、金があれば赦《ゆる》してもらうこともできる
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