あったのかと思った。
女の子はその翌晩も、その翌々晩も王が寝ていると必ず来たが、気が注いてみるといつもいなかった。王は夢にしては不思議であると思ったが、起きてみると女がいないので、事実と思うこともできなかった。しかし、事実と思うことができないにしても、まざまざと見える女の眼なり、口許《くちもと》なり、肉付《にくづき》なりがどうしてもただの夢とは思われなかった。
五日目になって、王は今晩こそ眠らずにいて、かの女の子がくるかこないかを確かめてやろうと思った。彼は榻の上へあがって眼をつむっていたが、眠らないようにとおもって心を彼方此方にやっていた。榻の枕頭《まくらもと》に点《つ》けた灯は、いつもより明るくしてあった。と、また物の気配がして榻にあがってくる物の衣摺《きぬずれ》のおとがした。王は確かに夢ではないと思ったが、眼を開けて吃驚《びっくり》さしてはいけないと思ったので、そのまま眠った容《ふう》をしてじっとしていた。
あがってきた者は平生《いつも》のように静かにその傍へ体を寝かした。王はいきなり抱きかかえて眼を開けた。それはこの四五日毎晩のように来ている綺麗な女の子の顔であった。女の
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