かった。
「僕は、非常に、この室の眺望が気に入ったから、すこしの間、此処に置いてくれたまえ、すぐ君の家の厄介になるから」
王は暫くその旅館にいることにして、其処から友達の家へ往ったり、友達を呼んできたりして、科学のことや、政治のことを語り合っていた。
半ヶ月ばかりしてのことであった。ある晩、王は友達の家から帰ってきて寝たところで、何人《だれ》か入ってくる気配がした。ふと見ると十四五に見える綺麗な女の子であった。王は不思議に思って見ていると、女の子は静かに榻《ねだい》の上へあがって、自分に寄添うた。王は起きているのか夢を見ているのかそれは自分でも判らなかったが、その綺麗な女の顔を見ると、自分の細君のような気もちになっていた。そして、朝になって気が注《つ》いてみると女はもういなかった。王は面白い夢を見たものだと思って自分で笑った。
その翌晩、王がまた寝床へ入っていると、また何処からともなしに昨夜の女の子が来て、やはり昨夜と同じように榻の上へあがって、自分のそばへ横になった。王はやはり細君のような気もちになっていたが、今度気が注いて眼を開けて見ると、女の子はまたいなかった。王はまた夢で
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