細君や小児は恐れて逃げだした。いくら話してもほんとうにしない。大異は非常に憤懣して、それから人にも逢わず、食を絶って死んだが、死ぬる時家の者を呼んで言った。
「俺は鬼に辱しめられて死ぬるから、棺の中へたくさん紙と筆を入れて置け、俺は天に訟《うった》えるのだ、俺が死んで数日したら、きっと蔡州に不思議な事が起る、その時は俺の勝った時だから、酒を瀝《そそ》いで祝してくれ」
家内の者は大異の言う通り紙筆を棺の中へ入れたところで、三日過ぎて、白昼不意に暴風雨が起って、それに雷鳴が加わり、屋根瓦を飛ばし、大木を抜いて、翌日の朝まで荒れて、朝になってやっと霽《は》れた。霽れた時にみると、大異の堕ちた坑のあたりが中心に大きな湖が出来て、それには赤い血のような水が溢れていた。
その時、大異の柩の中から声が聞えた。
「俺の訟えが勝って、鬼どもは夷滅《いめつ》せられた、それとともに天では俺の正直を認めてくれて、俺を太虚殿《だいきょでん》の司法にしてくれた、俺は職任が重くなったから、再びこの世にはこないのだ」
大異の家ではそこで大異を葬ったが、葬る時その柩の周囲に、大異の霊の髣髴《ほうふつ》としているの
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