次の怪物は赤い水を桶に入れてきて、それを大異の髪にかけた。髪は火のように赤い色になって、それが頭の周囲にまくれあがった。
「俺は碧光の睛《まなこ》を贈ってやろう」
も一つの怪物は二つの青い珠を持ってきて、大異の両眼に篏《は》めた。
「これで贈物はもう済んだらしいな、では、もうこの人間を帰してやろう、さあお前さん、帰るがいいよ、そこいらまで俺が送ってやろう」
大異は老鬼に促がされて歩いた。老鬼はことことと後から随《つ》いてきた。
暗い坑の口が見えてきた。その坑の口へ往ったところで老鬼が言った。
「この坑はお前さんがきた坑だ、これを出ると、すぐお前さんの家だ、ずいぶん達者で暮すがいい、さっきお前さんはひどい目に逢ったが、もうあんなことは忘れてしまうがいいよ」
大異はそこで老鬼と別れて坑を出た。坑の前《さき》は上蔡の市中であった。大異はその市中を通って東門にある自分の家へ帰ったが、撥雲の角、哨風の嘴、朱華の髪、碧光の睛、どうしても人間でないので、市中の者が聚《あつま》ってきたが、近くへは寄らなかった。小児《こども》などは啼《な》いて逃げた。
そして、やっと家へ帰り著《つ》いたが、
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