も知れない石塔であったり石地蔵であったり、狸であったりしたが、中でも多いのは狸であった。
「あれは、其《ある》処の狸じゃ」
村の人はその狸の名まで知っていた。狸が流行神様になるには、村の人に度たび憑いたあげく、
「俺を神として祭れば、もう人に憑かない」
などと云いだして、それで祭るようになるのであった。
何時の比《ころ》であったか、私の村に甚内と云う力士があったが、その甚内は狸に憑かれる人があると、その人の背から肩を揉んで、狸を追いだした。これには狸も困ったであろう。ある夜、甚内が林の下を通っていると、一疋の狸が出て来て、
「甚内さん、甚内さん」
と呼んだ。甚内は巫山戯《ふざけ》たことをする奴じゃ、一つ捕って汁にでも焚いてやろうと思って立ち停った。
「甚内さんにゃかなわんから、一つもうけさして仲なおりをしたいが、やってみませんか」
「何をやる」
「私の仲間が城下の浅井(富豪)のお嬢さんに憑いておるから、二人で紀州の花岡(名医)に化けて往って、仲間に退かしたら、うんと礼をくれるから、それをお前さんにあげます」
「何時往く」
「これから往こう、私に跟いてくるなら、すぐ往ける」
村
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