から城下の町へは、陸路で往っても三里しかなかった。
「どうして往く」
と、甚内が聞くと、
「ちょっと待っておくれ、準備《したく》をする」
狸は傍の木の葉を五六枚とって、それを口で舐めて体に貼ったが、見る見るそれが衣服《きもの》になった。そして、木の根に這いまつわっている葛を引きちぎって胴に巻くと、それが帯になった。甚内は、狸が人に化けるには、木の葉を舐めて貼ると聞いているが、なるほどそうだなと感心して見ていると、狸はもう立派な医師《いしゃ》になって、薬籠さえかまえていた。
「この薬籠をお前さんが持って往くが好い、お前さんは私の弟子のつもりでおるが好い」
と、薬籠をさしだすので、甚内はそれを受けとって肩にした。
「では往こう」
と云って、狸の医師はずんずんと歩いて往く。甚内もその後から跟いて往った。そして、暗い中を暫く往ったかと思うと、もう城下町の家並が灯の中に浮き出て来た。
「や、もう城下へ来たな」
甚内はその早いのに驚いていると、眼の前に大きな門が見えて、狸の医師はその中へ入って往った。甚内も続いて入って往くと、すぐ大きな玄関になった。玄関にはもう五六人の者が灯を持って出迎
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