、崑を敲《たた》いて神にあやまったが、幸いに禍をくだしもしなければ、またひっそりとして何の音さたもなかった。
 一年あまりして崑は十娘のことを念《おも》うて、ひどく自分で後悔した。そっと蛙神の祠へ往って、十娘をかえしてくれと泣くように言って祷ったが、ついに返辞がなかった。間もなく神が十娘を袁氏《えんし》へめあわすということが聞えてきたので、崑はがっかりした。そこで他の家から嫁を迎えようと思って、数軒の家の女を見たが十娘におっつく者はなかった。崑はそこでますます十娘を思うて、往って袁の家を探した。袁の家では、壁を塗り庭を掃除して、十娘の輿入れの車のくるのを待っているところであった。
 崑は心に愧じるとともに腹も立って自分で押えることができなかった。そこで食事もよして寝込んでしまった。両親は心配してあわてたが、どうしていいか解らなかった。と、睡っている崑の体をさすって、
「男がしきりに、離縁しようとしながら、この態《ざま》はなんです」
 と言う者があった。目を開けてみると十娘であった。崑は喜びのあまりにとび起きて言った。
「おまえ、どうして来たのだ」
 十娘が言った。
「あなたが軽薄なとり
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