ことをやめて怒りながら帰ってきた。両親はそのことを聞いて、ひどく懼れて顔色を失った。
 夜になって蛙神が近村の人びとの夢にあらわれて、崑の家をつくってくれと言ったので、村の人は夜が明けると、材木を運び、大工を集めて、崑のために建築にとりかかった。崑は辞退したが、止めなかった。毎日数百人の人が道に溢れて手伝いに来たので、幾日もたたないうちに新しい第舎《やしき》ができて、一切の道具がととのった。そして後かたづけが終ったところで、十娘が帰ってきて、堂へ入って、やさしい言葉であやまった後で、崑の方を振り向いて、にっと笑った。
 一家の者は怨みを忘れて喜んだ。十娘はそれから性質がますます穏やかになって、二年の間はなにもいうことがなしにすぎた。十娘は一ばん蛇をきらっていた。崑はいたずらに小さな蛇を函の中へ入れて、十娘をだましてその函を啓《あ》けさした。十娘は顔色を変えて怒って、崑を罵った。崑もまた笑っていたのがかわって嗔《いかり》となった。二人は互いに悪口を言いあった。十娘は、
「こんどは、あなたに出されるまで待ちません、どうか離縁してください」
 と言ってとうとう出て往った。薛老人はひどく恐れて
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