ってきて母の顔に涙の痕のあるのを見つけて、問いつめてその事情を知ったので、怒って、十娘を責めた。十娘は言いかえしをして負けてはいなかった。そこで崑は、
「妻をもらって親をよろこばすことができないなら、ないほうがいい、老いぼれ蛙に怒られたって、災難を受けて死ぬまでだ」
 と言ってまた十娘を出した。十娘はすぐに出て往ったが、翌日になって崑の家は母屋から火が出て幾棟かに延焼し、几案《つくえ》牀榻《ねだい》、何もかも灰になってしまった。崑は怒って蛙神の祠へ往って言った。
「女を養うて姑に仕えさすことのできないのは、家庭の教えがないというものだ、あんな女の道を知らない者をかばうとは何ごとだ、神は至って公平なものじゃないか、人に妻を畏れさすようにするとは何ごとだ、それにさ、夫婦の喧嘩は、皆俺のしたことで、両親の知ったことじゃない、罪があるなら俺に加えるがいい、それを両親のいる家を焼くとは何ごとだ、俺も汝《きさま》の家を焼いて讐をうってやる」
 言いおわると薪を持って神殿の下へ入って、火を点《つ》けようとした。土地の人が集まってきて、どうか焼かずにおいてくれと泣くように言って頼むので、崑は火を点ける
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