がすぐ気に入ってしまった。しかし黙っていて返辞をしなかった。すると老婆は言った。
「私はとうから郎の心を知っております、どうか前《さき》へお帰りください、すぐ十娘を送ります」
 崑は、
「はい」
 と言って、そこを出て帰り、父親にそのことを知らした。薛老人は驚きあわてたがどうすることもできない。そこで崑に言いかたを教えて断りに往かそうとしたが、崑はどうしても往こうとしなかった。親子で言いあらそいをしているうちに、輿《こし》がもう門口へ来て、お供の侍女が群をしていた。そして十娘が来て、奥へ往って舅と姑に挨拶した。
 舅と姑は十娘を見ると喜んだ。そこでその晩すぐ婚礼の式をあげたが、二人は心があって、ひどく仲がよかった。それによって神の夫婦が時おり崑の家に姿を顕わした。そして神の夫婦の衣服《きもの》を見て、それが赤い時には喜びがあり、白い時には金が入った。かならず験《しるし》があった。それで崑の家は日ましに栄えて往った。
 神と結婚してから崑の家は、門も座敷も垣根も便所も皆蛙ばかりとなった。しかし、他の人は決して悪口したり蹴ったりしなかったが、ただ崑は少年の気ままから、喜べば忘れ、怒れば践《
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