いると、使いの者が来て神の言いつけであると言って、しきりに伴れて往こうとするので、しかたなしに従《つ》いて往った。そして、朱塗の門を入って往くと、そこにきれいな楼閣があって、一人の叟《としより》が堂《ざしき》の上に坐っていたが、七八十歳になる人のようであった。崑がかしこまってお辞儀をすると、叟は旁《かたわら》の者に言いつけて、崑をおこして自分の案《つくえ》の旁へ坐らした。
しばらくすると侍女や媼《ばあや》などがそのあたりにごたごたと集まってきて崑を見だした。叟は振り向いて、
「奥へ往って薛の郎《わかだんな》がいらしたと言ってこい」
と言った。すると二三人の侍女が奔《はし》って往ったが、ちょっと手間を取ってから、一人の老婆が女郎《むすめ》をつれて出てきた。それは年の比《ころ》が十六七で、その麗わしいことは儔《たぐい》のない麗しさであった。叟はそれに指をさして言った。
「この児は十|娘《じょう》だ、自分から君と佳いつれあいだと言っておる、君のお父様は、異類だと言ってこばんでいるが、これは自分達が一生のことで、両親のことじゃない、これを決める決めないは君しだいだ」
崑は十娘に目をやった
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