かった。六つか七つの時、青い衣《きもの》を着た婆さんが来て、
「わしは神の使いだ」
 と言って、座敷へあがりこんで、蛙神《あしん》のおぼしめしを伝えた。
「わしの女《むすめ》を崑生《こんせい》にめあわしたい」
 崑の父の薛老人はかざりけのない男であった。心がすすまなかったので、
「児《こども》が小そうございますから」
 と言ってことわったが、まだ他《ほか》と結婚の話はしなかった。そのうちに五六年たって、崑もだんだん大きくなったので、姜《きょう》という家の女と結納をとりかわした。すると神から姜にお告げがあった。
「崑生はわしの婿だ、禁臠《きんれん》に近づいてはならぬぞ」
 姜はそこで懼《おそ》れて結納をかえした。薛老人は心配して、牲《にえ》を潔《きよ》めて祠に往って祷《いの》った。
「とても神様と縁組することはできませんから、どうかおゆるしを願います」
 いのりが終って供えてある酒と肴の方を見ると、皆大きな蛆《うじ》が入って、うようよとうごめいていた。薛老人は酒と肴をすてておわびをして帰ってきたが、心でひどく懼れて一時神の言いつけを聴くことにした。
 ある日のことであった。崑が途を歩いて
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