いると、使いの者が来て神の言いつけであると言って、しきりに伴れて往こうとするので、しかたなしに従《つ》いて往った。そして、朱塗の門を入って往くと、そこにきれいな楼閣があって、一人の叟《としより》が堂《ざしき》の上に坐っていたが、七八十歳になる人のようであった。崑がかしこまってお辞儀をすると、叟は旁《かたわら》の者に言いつけて、崑をおこして自分の案《つくえ》の旁へ坐らした。
しばらくすると侍女や媼《ばあや》などがそのあたりにごたごたと集まってきて崑を見だした。叟は振り向いて、
「奥へ往って薛の郎《わかだんな》がいらしたと言ってこい」
と言った。すると二三人の侍女が奔《はし》って往ったが、ちょっと手間を取ってから、一人の老婆が女郎《むすめ》をつれて出てきた。それは年の比《ころ》が十六七で、その麗わしいことは儔《たぐい》のない麗しさであった。叟はそれに指をさして言った。
「この児は十|娘《じょう》だ、自分から君と佳いつれあいだと言っておる、君のお父様は、異類だと言ってこばんでいるが、これは自分達が一生のことで、両親のことじゃない、これを決める決めないは君しだいだ」
崑は十娘に目をやったがすぐ気に入ってしまった。しかし黙っていて返辞をしなかった。すると老婆は言った。
「私はとうから郎の心を知っております、どうか前《さき》へお帰りください、すぐ十娘を送ります」
崑は、
「はい」
と言って、そこを出て帰り、父親にそのことを知らした。薛老人は驚きあわてたがどうすることもできない。そこで崑に言いかたを教えて断りに往かそうとしたが、崑はどうしても往こうとしなかった。親子で言いあらそいをしているうちに、輿《こし》がもう門口へ来て、お供の侍女が群をしていた。そして十娘が来て、奥へ往って舅と姑に挨拶した。
舅と姑は十娘を見ると喜んだ。そこでその晩すぐ婚礼の式をあげたが、二人は心があって、ひどく仲がよかった。それによって神の夫婦が時おり崑の家に姿を顕わした。そして神の夫婦の衣服《きもの》を見て、それが赤い時には喜びがあり、白い時には金が入った。かならず験《しるし》があった。それで崑の家は日ましに栄えて往った。
神と結婚してから崑の家は、門も座敷も垣根も便所も皆蛙ばかりとなった。しかし、他の人は決して悪口したり蹴ったりしなかったが、ただ崑は少年の気ままから、喜べば忘れ、怒れば践《
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