腹がごろごろ鳴ってひもじくてこらえられなかった。
 そこで二人は人家のある方へ往こうと思って、急いで山を越えて往った。山の半《なか》ばまで往ったところで、矢の音がした。陳は足を止めて耳をすました。と、馬の跫音がして二人の女郎《むすめ》が駿馬に乗って駈けてきた。二人とも紅い※[#「糸+悄のつくり」、第3水準1−90−6]《しょう》の鉢巻をして、髻《もとどり》に雉《きじ》の尾を挿し、紫の小袖を着、腰に緑の錦を束ね、一方の手に弾《はじきゆみ》を持ち、一方の手に青い臂《ひじ》かけをしていた。その二人が嶺の南を駈けて往くと、二三十騎の者が後から続いた。林の中に猟をしていた一行であろう、皆美しい女ばかりで装束もおんなじであった。
 陳は大事をとって動かなかった。騎馬の後から男の駈けてくるのが見えた。それは馭卒《ぎょそつ》のようであった。陳はその馭卒の方へ往って、
「今、通ったのは何方《どなた》です」
と訊いてみた。馭卒は言った。
「あれは西湖の王様じゃ、首山《しゅざん》に猟をなされておるところじゃ」
 陳は自分がそこへ来た故《わけ》を知らして、そのうえ飢えていることを話した。馭卒は裏糧《べんとう》
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