には干支の兄、干支の弟という意味で庚兄《こうけい》庚弟《こうてい》と呼びあい、その子や甥などは干支の伯《おじ》さんという意見《いみ》で、それを庚伯《こうはく》と呼ぶの風習があった。祝《しゅく》という男があって庚兄庚弟と呼びあっている同年の男の所へ出かけて往ったが、途中で喉が渇いたので何か飲みたいと思って、ふと見ると道傍《みちばた》へ板の台を構えて一人の媼《ばあ》さんが茶の接待をしていた。祝は喜んで其所へ往って、
「どうかお茶を一ぱい飲ましてください」
と言うと、媼さんはこころよく迎えて、
「さあ、さあ、どうかお休みくださいまし」
と、言って祝に腰をかけさし、静かに茶を汲んできたが、茶器も立派なうえに茶の色も良かった。祝はますます喜んで飲もうとしたが、みょうな匂いがして茶のようでないから飲まずに置いて、
「どうもありがとう」
と、言って起って出ようとすると媼さんが止めた。
「どうか、すこしお待ちなすってください」
と、言って媼さんはそれから内の方を見て、
「三|娘《じょう》、このお茶は、お客さんがお厭のようだから、其所にある好いお茶を汲んでいらっしゃい」
すると台の後から少女が
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