くたって何ともないのです、それに祝さんのお母さんも可愛がってくだされるのですから、心配しないでください」
三娘の母親は聞いた。
「お前と同時にお茶を飲ましてた媼さんは何人だね」
「あれは倪《げい》という家のお媼さんですよ、自分で心にはじるから、私にやらしたのですわ、今は、もう郡城の漿《のみもの》を売る家の児に生れてるのです」
と、言った。三娘は祝の方を振返って、
「あなたは婿じゃありませんか、なぜあいさつをしてくださらないのです」
祝はそこで三娘の両親にあいさつをした。三娘はそれから厨《だいどころ》へ入って往って母にかわって炊事をし、里の両親に御馳走をした。三娘の母親は女が今までしたことのなかった炊事をしているのがいかにも可哀そうであるから、家へ帰るなり二人の婢をよこして三娘の手がわりをさし、そのうえ金百斤、布帛《おりもの》十匹を贈り、また肉や酒の類はなくならないうちにうちにと送ってきた。寇家ではまた時どき三娘に帰※[#「宀/必/冉」、246−7]《さとがえり》をさしたが、二三日いると三娘は家が無人だから還らしてくれと言った。両親は長く置きたいので、それを引き留めて置くとひらひらと風に吹かれるようにして自分で帰って往った。寇の父親は祝のために大きな屋敷を作ってくれたが、祝は一回も寇家へ往かなかった。
某時《あるとき》、村で水莽の毒に中《あた》って死んだ者があったが、死んで間もなく蘇生した。村の者はそれを不思議がった。すると祝が言った。
「あれは、わしが活《い》かしたのだ、あれは李九の魅であったが、わしがその鬼を追いのけたのだ」
それを聞いて祝の母が言った。
「お前も、何故、人を取って生れ代らない」
「私は、こんなことをする者に対して恨みがあるのですから、そんな奴を皆追いのけてしまいたいのです、くだらんことをしたくないのです、それに私はこうしてお母さんにつかえていれば良いのです、生れ代りたくはないのです」
それから村で水莽草の毒に中る者のあった時には、御馳走を供えて祝を祭ると徴《しるし》があった。そして、十年あまりして祝の母が亡くなった。祝夫婦はひどく悲しんで葬式をしたが、他の客には姿を見せなかった。ただ、児に※[#「糸+衰」、第4水準2−84−50]麻《もふく》を着せて、葬式の礼をおこなわした。そして、児には礼儀を教えた。
祝夫婦は母を葬ってから、二年
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